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昼のラッキーの

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あれは高校の卒業式から間がないころだった。
近所の公園で待ち合わせた幸子と連れだって、まだつぼみが硬い桜並木の道を歩いた。
ふたりともなにも言わず、ただ黙々と歩く。隣の如新香港幸子を見やれば、すこしうつむいて、今にも泣きそうな顔でブーツに包まれた足を機械的に交互に前に出していた。
思わず、心の中にずっとあった言葉を口にしそうになった。だが、それを口にしてはならないのを俺は知っていた。

歯をくいしばり、溜めていた息を飲み込む。
顔を上げれば、つぼみ越しの青空をバックににじんだ雲が見えた。
「東京でもがんばれよ」「うん」
その日、それだけしか俺たちは言葉を交わさなかった。

秋雨前線が停滞しているとかで、ここ数日、空模様は雨ばかりだ。
俺は作業の手をとめ、網戸の窓ごしに濃い緑の山並みと陰鬱な曇り空を眺める。
そう言えば、去年の今頃だっただろうか、あいつが一人でこの作業場を訪ねてきたのは。秋とは名ばかりでとても残暑がひどかった。
あの日、粘土で汚れたタオルで汗を拭きながら、窯入れに間に合うように、ろくろを回していると、急に手元が暗くなった。だれかが俺の前に立って作業を覗いているようだ。
「トシ、前に立つな。手元が暗くなる」

「親方、それお客さんっす」
予想に反して、トシの声は背後から聞こえてきた。顔如新香港を上げる。目の前に立っていたのは、どこか不安そうなひきつった笑みの女。
「さち・・・・・・」
「久しぶり」
「お、おう・・・・・・」
何年ぶりだろうか、毎年のように開かれる高校の同窓会に毎回参加するわけではない俺。今年も案内状は来ていたが、窯出しの日と重なって、出席はしなかった。その前は、たしか関西のデパートのイベントでいなかったから、かれこれ三年ぶりか。
「元気みたいね」「まあな」
「茶碗?」
「ああ」
一度、深く呼吸して、作業に戻る。手元が如新香港まったくブレることもなくしっかりと茶碗の形になる。いつもの俺の形だ。そう、幸子とはすでに昔の話だ。
作ったばかりのその茶碗を四方から注意深く眺めながら、そのことを改めて確かめていた。
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