無事に進路の決まった娘が卒業を間近に友達を家に呼ぶという、高校生活の思い出に家に泊まるらしい。狭い我が家には客人用の寝室がない。
「おとーさん、一晩どこかに泊まってきて」
というわけで女子高生軍団に部屋を乗っ取られた僕は旅に出ることにした。「ぶらり中年一人旅である」一見わびしい光景に
探索四十課程見えるが、堂々と大手を振って久しぶりの一人旅である。内心は嬉々としながら旅のプランを練る。
東京から一泊で行けるところ、お金が余りかからないところ、鄙びてややうらびれたところ、という3つの条件にかなう候補地を探索する。
歴史の教科書にも出てくる足尾銅山が候補として挙がった。確か、銅山ははるか昔に閉山し町は廃れてしまったが、かつての隆盛をいまだに残す建造物が現存し、昨今で観光地としても秘かに人気を集めていると聞くではないか、ネットで調べてみると浅草から約3時間余り、宿は国民宿舎がシーズンオフのキャンペーン中という事で一泊4000円とある。
「安い!」迷わず決める。
こうして、初春の平日僕のぶらり旅の第一歩は、息も白い寒い朝に記された。遠足の朝のように僕は早起きし、最寄駅の始発電車に乗り込んだ、時
緊緻面霜はまだ朝の5時、季節は3月、僕は旅行鞄一つを肩に提げて車中の人となった。
浅草に着く、旅といえば駅弁に限る!と駅弁を探すのだが平日の早朝ともあってそれらしきお店がない。心ならずもコンビニでおにぎりを中心とした朝食を買い込み7時過ぎの特急に乗り込んだ。
平日の早朝特急は見事に閑散としている、車両には僕のほかに2名、しかも観光というよりはビジネスで出かけるいでたちである。何となく優越感を感じる「ぼくはこれからたびにでるんだもんね」的なウキウキ感を伴いつつ特急「りょうもう号」で相生までの車窓を楽しんだ。埼玉県内は景色も単調だったが、栃木、群馬に近づくにつれて山の陰影が濃くなりいやがうえにも旅のテンションは高まっていくのである。
相生に到着、ここでわたらせ渓谷鉄道に乗り換える、休日だと観光用の列車が走っているらしいがこの日は地元の人たちを乗せた比較的地味な列車がホームに滑り込んできた。